2008年07月02日

『ジョン・エヴァレット・ミレイ展』

それだのに、この儘で地獄に行き難いのは、
あのオフィーリアのことが気にかかるからだ。
彼女(あれ)にはつひぞ予(わし)の本心を打ち明ける機会が無かつたのみか、
無残にも狂ひ死にさせることになつてしまつた。
−矢野峰人『ハムレット亡霊の独白』

Ophelia.jpg

猛る程恋に生き恋に死せる乙女として、ハムレットのヒロイン、オフィーリアもファムファタルの一人として数えてもよいのではないだろうか。

私が有名なミレイのオフィーリアを間近に観たのは、1998年の『テート・ギャラリー展』で上野に遊んだ際の事だった。『オフィーリア』はその展覧会の目玉で、私は人の群れが粗方去った後も暫くその場に立ち尽くしていた記憶がある。

その『オフィーリア』が遥か英国から再度お目見えしている。北九州市美術館の後は渋谷はBunkamuraザ・ミュージアムを巡回。それぞれ、6月7日(土)〜8月17日(日)迄と8月30日(土)〜10月26日(日)迄。

モデルとなった女性は、後のミレイの妻であるエリザベス・シッダル。4ヶ月に渡ってバスタブの湯の中に横たわってポーズをとり続けたが、ある時バスタブを温めていたランプの火が消え風邪を患い、彼女の父親との治療費をめぐる裁判沙汰になり掛けたという。

オフィーリアの廻りに描かれた草花は、その象徴的意味に基づいており、例えば柳は「見捨てられた愛」、刺草(イラクサ)は「苦悩」、ひな菊は「無垢」、芥子は「死」、パンジーは「愛の虚しさ」、薔薇は「若さと美貌」、忘れな草は「思い出」、そして彼女が首飾りにしている菫は「誠実・純潔・夭折」といった具合である。
内、菫についてはリンク先である国見弥一氏のサイト、『壺中山紫庵』にも興味深い記事があるので、是非御一読されたい。


■『ジョン・エヴァレット・ミレイ展』 −北九州市美術館 6月7日(土)〜8月17日(日)迄
■『ジョン・エヴァレット・ミレイ展』 −Bunkamuraザ・ミュージアム 8月30日(土)〜10月26日(日)迄
■ハムレットとスミレとオフィーリアと −『壺中山紫庵』
posted by Usher at 20:44| Comment(0) | TrackBack(1) | 美術 | 更新情報をチェックする

2008年04月13日

『池田満寿夫 知られざる全貌』展

格式にこだわりたくない。俺の仕事は岩波からプレイ・ボーイまで。
−池田満寿夫

『怖るべき子供たち』

つい、「マスオちゃん」と呼んでしまう。
本人にしてみれば、随分と無礼な話である。

故人とはいえ私より遥かに年長者であるし、世界的な芸術家でもあるのだから、画伯とでも呼ぶのが普通であるかもしれない。勿論、私とは一面識すらない。

池田満寿夫というマルチな作家を、私は彼の作品や、写真、人となりからしか知ることしか出来ない。パーマを掛け、細身のジーンズを履いて立つこの画家は、パッと見る限り近所のオニイチャンといった感じで、画伯然とした鼻持ちならない印象はまるで無い。

私が池田満寿夫の作品に触れたのはつい近年のことで、鈴木成一デザイン室が装丁を手掛けた角川文庫の『怖るべき子供たち』の表紙カバー、『海のスカート』(ドライポイント)だった。
厚手のクラフト紙にプリントされた池田の版画は、画家という枠に捕らわれないコクトーの作品にぴったりだった。

著名なヴァイオリニスト、佐藤陽子さんとおしどり夫婦として知られ、90年以降音楽や楽器をテーマとした作品を屡々創作していることも、私を親しみ易くしてしまう要素の一つかも知れない。

陶芸作品も多く残した池田満寿夫の展覧会、『池田満寿夫 知られざる全貌』が千葉市美術館で開催中である。5月18日(日)迄。


■『池田満寿夫 知られざる全貌』 千葉市美術館
posted by Usher at 23:13| Comment(1) | TrackBack(1) | 美術 | 更新情報をチェックする

2008年03月09日

アラステアの『サロメ』

黄金に輝くビルマ風の一角獣のまわりで、金糸と瑠璃の綾衣を身に纏ったアラステアがゴチックダンスを踊っている。傍らにはクッションを食むように置かれた青銅の鹿。そして、生身の少女から型をとった蝋人形。炉辺からは炎のような熱気が流れ込んでくる…。
−ガブリエル・ダヌンツィオ

Alastair's_Salome

先月半ばに贔屓の古書店より購入し、蝸牛の歩みの如く頁を進めてきた仏対訳『サロメ』(大正13年10月発行 白水社刊)をようやく読了した。
話の筋は解りきっているのだし、対訳なのだから日本語で読めば良いのだが、折角なので字引を片手にちまちまと読んでいたら、時間が掛かってしまった。まァ、そんなに難しいものでもないのだが。

さて、この対訳『サロメ』は一寸珍しいことに、アラステアの口絵が入っており、これが私を嬉しくさせた。

自称、さるバヴァリア皇子の御落胤というこの画家は、本名をハンス・ヘニング・フォクトといい爵位を入手してフォクト男爵とも称したようだ。
ビアズリーと比較されることも多いようだが、時代としてはビアズリーよりも少し後であり、画風はハリー・クラークのそれに一寸似た趣もあるが、その描写はクラークよりずっと病的である。

嘗てチャールズ・リケッツやビアズリーを世に送り出したジョン・レインによってその才を見出され、ダヌンツィオやサラ・ベルナールをはじめとする時代の寵児と交流を持ち、屡屡援助を受けながら、個展や時には匿名で私家版の挿画を描いた。
しかし、デカダン画家としては一番後輩のアラステアの画は、当時既に流行遅れであった。不遇の画家とも云えるだろう。

日夏耿之介訳の奢覇都館版よりも遡ること半世紀も前に、アラステアを日本に紹介した『サロメ』としてこの白水社版を評価したい。


■『24のカプリース』 −ピアノ伴奏版 (幣BLOG関連記事)
posted by Usher at 13:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 美術 | 更新情報をチェックする

2008年02月23日

『誌上のユートピア 近代日本の絵画と美術雑誌1889-1915』展

『誌上のユートピア』展

『誌上のユートピア 近代日本の絵画と美術雑誌1889-1915』展が神川県立近代美術館 葉山館で開催中である。

アール・ヌーヴォーや世紀末芸術が、日本の装丁の黎明や工芸技術に与えた影響を知る上で、重要な参考資料と成ることは必至であると思う。古書ファンの目にも華やかな展覧会。

※『The Yellow Book』(1894年創刊)が出展されているとのこと。


■『誌上のユートピア 近代日本の絵画と美術雑誌1889-1915』 神川県立近代美術館 葉山館
posted by Usher at 16:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 美術 | 更新情報をチェックする

2007年09月04日

『ヴェネツィア絵画のきらめき』 −ティツィアーノのサロメ

すると彼女は母にそそのかされて、「バプステマのヨハネの首を盆に載せて、ここに持ってきていただきとうございます」と言った。
−マタイによる福音書 第14章 第8節

Titian_Salome_01

今年3月末に豊田美術館から始まった企画展『ヴェネツィア絵画のきらめき −栄光のルネサンスから華麗なる18世紀へ』も渋谷Bunkamuraザ・ミュージアムに巡回してきた。
今回私がこれを採り上げたのは、ティツィアーノ描くところの『洗礼者ヨハネの首を持つサロメ』(上図)が来日しているからだ。ただ、それだけなのだ。

改めて筆をとるまでもなく、ヨハネの首を持って狂喜乱舞するファムファタルとしてのサロメは19世紀以降に作家や詩人、画家によって創られたイメージである。
ティツィアーノのサロメは華奢でもなく、薄いヴェールも纏っていない。同じティツィアーノであれば、昨年『プラド美術館』展 (東京都美術館)で観た『サロメ』(中上段)の方がファムファタルのイメージに近いかも知れぬ。首を誇らしげに掲げ、冷ややかな視線を送る構図が印象的だ。(中下段は同じ構図の『果物皿を持つ若い娘』)

Titian_Salome_02
Titian_01

どうせなので、ティツィアーノの『サロメ』をもう一つ挙げておく。(下図)
サロメに関するイコノロジーは、井村君江女史が著した『サロメ図像学』に詳しい。

Titian_Salome_03


■『ヴェネツィア絵画のきらめき −栄光のルネサンスから華麗なる18世紀へ』 Bunkamuraザ・ミュージアム(9月2日〜10月25日 開期中無休)
■『サロメ図像学』 著:井村君江 あんず堂
posted by Usher at 04:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 美術 | 更新情報をチェックする

2007年07月16日

『死神のいる自画像』

Self-portrait with Death Playing the Fiddle

ラフマニノフが音楽にしたことでも有名な『死の島』を描いた19世紀末瑞西の画家、アーノルド・ベックリンの『死神のいる自画像』。(1872年:ベルリン美術館蔵)
一弦のヴァイオリンを奏く死神は、象徴主義の典型的な虚栄(ヴァニタス)のアレゴリーのようだが、画家が霊感(インスピレイション)を受ける、まさにその刹那を表している。
残されたG線のみで死神が奏でる曲は、やはりアウグスト・ヴィルヘルミ編の『G線上のアリア』だろうか。いや、ちとロマンチック過ぎるネ。


■アルノルト・ベックリン Wikipedia
■ベルリン美術館 (英語・独語)
posted by Usher at 17:09| Comment(4) | TrackBack(0) | 美術 | 更新情報をチェックする

2007年06月27日

『ルドンの黒 −眼をとじると見えてくる異形の友人たち』

「ルドンの教えは、彼が、何か魂の状態を表明しないようなもの、あるいは、深い感動と心の奥底の幻想とを伝えないようなものはなにひとつ描くことができなかった、というまさにその点にある。」
−モーリス・ドニ

『無限の方へ向う不思議な気球のような眼』

『ルドンの黒』展がBunkamuraザ・ミュージアムにて開催される。(7月28日から)
世紀末趣味でバタ臭い弊ブログがこのニュースを採上げなければウソというものだろう。

過去記事でも少し書いたと思うが、ルドンと云えばリトグラフや木炭画、銅板画などのモノクロームのイメージが強かった私は、初めて彼の油彩に出逢った時は茫然としてしまった記憶がある。マッソンはルドンの色彩を「抒情的クロマティスムの無限の可能性」と評している。

イベント名からも見るように今回のルドン展はリトグラフの作品がメインとなるようだ。色彩の作品も少し展示されるようなので、足を運ばれた方はその対比を楽しみながら、ルドンの内面の孤立した危機的性格を探るのもまた良いと思う。


■『ルドンの黒』 Bunkamuraザ・ミュージアム(7月28日〜8月26日 開期中無休)
■Odilon Redon, the online Museum
■The Athenaeum Displaying artworks for Odilon Redon
posted by Usher at 00:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 美術 | 更新情報をチェックする

2007年04月05日

企画展『澁澤龍彦 −幻想美術館−』

Marquis de Sade
北鎌倉へ遊んだ際に、仏文学者澁澤龍彦氏の墓を参りに行ったのは、もう7年も前になろうか。
小町の旧宅の前にある喫茶店でコーヒーを飲み、由比ヶ浜をぶらぶらし、明月院の近くに聳え立つ澁澤邸に尻込みをしては引き返し、最後に氏の眠る浄治寺を訪ねた。
「澁澤龍彦さんのお墓はどこですか?」
私は墓守であろうオジサンに聞いた。
「ああ、さっきも若いカップルが聞いてきたな。一寸、判り難い場所にあってね。こっちだよ。」
案内されるままに付いていくと、小さな墓の前で若い男女が手を合わせていた。

今年は澁澤龍彦の没後20年にあたる。それを記念して、埼玉県立近代美術館にて『澁澤龍彦 −幻想美術館−』展が開催される。(4月7日から)
出品作品もパルミジャニーノ、アルチンボルド、ピラネージ、モロー、ルドン、デルヴォー、伊藤若冲、河鍋暁斎、瀧口修造、池田満寿夫、野中ユリ、et cetera. 氏の愛した作品が一堂に会す。シブサワファンのみならず、美術愛好家の目にも楽しい企画展となっている。

さて、カップルが去って私の番になって息を呑んだ。墓前には巻貝の殻や、卵型の石、ビー玉、ウイスキーの小瓶等が所狭しと並んでいたからだ。
「お参りに来る人が置いて行ってね。時々夫人が来ては、段ボールに纏めて大事そうに持ち帰るんだけど、最近はお加減が悪いらしく、お見えにならないなぁ。」
私は、手ぶらで来たのを少々後ろめたく感じながら、龍子夫人が早く良くなることを祈りながら手を合わせ、その場を後にした。

私の心配など杞憂であったようで、夫人は『蔵書目録』の編纂も終え、最近は『食彩の王国』(テレビ朝日)にも出演されていた。 今回の企画展で巖谷國士氏との対談もされるようだ。 お元気そうで何よりである。

余談だが、澁澤氏の墓の二ツ隣は『阿川家』となっていた。オジサン曰く、最近阿川弘之氏が購入されたのだとか。気の早いことである。


追記:2007/7/15) リンク追加。『澁澤龍彦 −幻想美術館−』はこの夏、MOCAS 札幌芸術の森美術館を巡回する。
追記:2007/4/30) リンク追加。鎌倉文学館でも企画展が始まったようである。神奈川にお住いの方は必見。


■企画展『澁澤龍彦 −幻想美術館−』 MOCAS 札幌芸術の森美術館(8月10日〜9月30日迄)
■企画展『澁澤龍彦 カマクラノ日々』 鎌倉文学館(4月28日〜7月8日迄)
■企画展『澁澤龍彦 −幻想美術館−』 埼玉県立近代美術館(4月7日〜5月20日迄)
posted by Usher at 00:35| Comment(4) | TrackBack(0) | 美術 | 更新情報をチェックする

2007年03月18日

『シュルレアリスム展−謎をめぐる不思議な旅』

Un chien andalou
『シュルレアリスム展−謎をめぐる不思議な旅』が目下開催中である。(埼玉県立近代美術館にて)
シュルレアリスム運動と云えば、20世紀初頭にダダより移行して、ブルトンが提唱した『宣言』によって捲起された一大ムーブメントであることは、人口に膾炙している通りだ。

マグリットも出品されているようだが、何故日本人がそんなにマグリットに熱狂するのか私には解せぬ。 一頃、宇都宮市が6億を超える値段で『大家族』を買取った、というニュースが流れたが札束で頬をはたいているようでどうも気に入らない。
まァ、ベルメール、キャリントン、デルヴォー、デュシャンなど他のシュルレアリストも出品されているので、彼らにも目を向ければよい。

今月21(水)と24(土)には、ルネ・クレールの『幕間』、ルイス・ブニュエルの『アンダルシアの犬』、『黄金時代』も上映されるようだ。DVDによるものらしいが、最近いずれも入手が難しい。 こちらも要チェックされたし。


尚、埼玉県立美術館での会期は3月25日迄。その後、以下の各地を巡回する。
●4月7日(土)〜5月27日(日) 岡崎市美術博物館
●6月2日(土)〜7月8日(日) 山梨県立美術館
●7月21日(土)〜9月2日(日) 宮崎県立美術館
●9月15日(土)〜10月28日(日) 姫路市立美術館


■『シュルレアリスム展−謎をめぐる不思議な旅』 美術館連絡協議会
■『シュルレアリスム展−謎をめぐる不思議な旅』 埼玉県立美術館
posted by Usher at 23:23| Comment(5) | TrackBack(2) | 美術 | 更新情報をチェックする

2007年02月07日

『さかしま』 −デ・ゼッサント絵画コレクション

A REBOURS
世界でも唯一であろうユイスマンスの伝記『ユイスマンス伝』(学研)の著者ロバート・バルディックに拠れば、過日2月5日はユイスマンスの誕生日であった。
昨年9月に"折に触れ…"などと書いておきながら(過去記事)、等閑になっていたので良い機会である。今日は『さかしま』よりフォントネエ・オー・ロオズの高台にある屋敷を飾った絵画群を列挙してみたい。

apparition.jpg
●『サロメ』 『まぼろし』 ギュスターヴ・モロオ作

●『宗教的迫害』 ヤン・ロイケン作 銅版画:黒檀の額縁

死の喜劇
●『死の喜劇』 『よきサマリア人』 ロドルフ・ブレスダン作 銅版画・石版画

CryingSpider.jpg
●『泣く蜘蛛』等 オディロン・ルドン作

●『素描』 エル・グレコ(テオコプリ)作

理性の眠りは妖怪を生む
●『カプリチョス』 『俚諺集』 『首枷の刑』 ゴヤ作 銅版画・アクアチント

●『無題』 レンブラント作

デ・ゼッサントの絵画コレクションは、蔵書に比べれば以外にも少なかった。 尤もこれは『さかしま』作品中の物だけで、1つの美術館が建つほど学者垂涎の品がゴロゴロしていそうだ。無題の物も何点か有ったが、これと思う画像をupした。
蔵書といい、絵画といい、処方箋のようなメニューといい、奇怪な植物といい、デ・ゼッサントという男は呆れるほどオブジェを愛する人間である。
今尚、愛されるJ・K・ユイスマンスは来年2月を以て、生誕160年を迎える。

※本記事を書く際、先日TBを頂いた国見弥一様のブログ『無精庵徒然草』に屡々御目に掛かった。そして私の大好きな駒井哲郎の記事も! 改めて謝辞申上げたい。


■ギュスターヴ・モロー美術館 公式HP (仏語)
■文化遺産オンライン ロドルフ・ブレスダンの項
■ゴヤ ロス・カプリチョス―寓意に満ちた幻想版画の世界 国立西洋美術館所蔵 (単行本)
posted by Usher at 23:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 美術 | 更新情報をチェックする

2006年12月05日

『受胎告知』来日 −特別展『レオナルド・ダ・ヴィンチ―天才の実像』

Annunciation.jpg
各所ブログでも話題になっているようだが、レオナルド・ダ・ヴィンチの『受胎告知』が日本で公開となるそうだ。(来年3月20より東京国立博物館にて)
140年以上もウフィツィ美術館から出ることの無かった、ダ・ヴィンチの初期の大作だ。海外旅行などすれば天変地異でも起こりかねない程、出不精の私にとっては朗報である。

HPに告知はまだないようだが、展示はかつて1974年に『モナリザ展』を開催した東京国立博物館。2ヶ月の開催期間中、延べ150万人が訪れたという。ここまでではないにせよ、どうも盛況になるのは必至だろう…。

昨今では、書籍や映画などで一寸した流行になったのを冷ややかな目で見ていたので、またダ・ヴィンチブームが再燃するのではないかと思うと、杞憂ながら少々ウンザリしないでもない。
ダ・ヴィンチの絵画は妙な謎解きなどせず、ただ真摯で敬虔な心で観るのが良いように思う。


追記:2006/12/14) 公式HPが出来たようなので、リンクを追加した。上記『モナリザ展』の画像有。
追記:2007/02/04) イタリア大使館が「受胎告知」の出品履歴を修正した。35年のパリ、39年のミラノに続いて日本へ出品は3度目となる。伴って本記事の修正と、asahi.comへのリンクを追加した。

■『レオナルド・ダ・ヴィンチ―天才の実像』 公式HP
■「受胎告知」の出品履歴を修正 イタリア大使館 asahi.com
■ダ・ヴィンチの『受胎告知』、来年3月に日本初公開 asahi.com
■『受胎告知』ウフィツィ版 Salvastyle.com
■ウフィツィ美術館 公式HP (英語・伊語)
■東京国立博物館 公式HP
posted by Usher at 00:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 美術 | 更新情報をチェックする

2006年11月05日

M.C.エッシャー −視覚の魔術師

それはいわゆる凹面鏡によって囲まれた小宇宙なのです。われわれのこの世界ではないのです。もっと別の、恐らく狂人の国に相違ないのです。  −江戸川乱歩『鏡地獄』

buildings.jpg
『スーパーエッシャー展』が11(日)より開催される(Bunkamuraミュージアムにて)。 何がスーパーなのか解らないが、兎に角スーパーだからスーパーなのだろう。

M.C.エッシャー(マウリッツ・コルネリス・エッシャー)といえば、オランダを代表するトリック・アートの巨匠で、名前は知らなくともその幾何学的な作品を見たことのある人は多いことと思う。 エッシャーの厖大な作品は幾つかのテーマによって書かれているが、その主なものとしては以下の様なものだ。

1.千鳥格子のような複雑な図形の組合せ(数学的には平面の正則分割というそうだ)から成るメタモルフォーゼ。(『空と水』 『昼と夜』など)
2.魚眼レンズから覗いたような(或いは凸面鏡に映し出されたような)球面パノラマ世界。
3.不可能構造による永久回廊。(『滝』 『上昇と下降』 『物見の塔』など)

parmigianino.jpg

球状鏡面への憧れは何もエッシャーに始まったことではなく、マニエリスム期においてはパルミジァニーノの『凸面鏡の自画像』(上図)が有名であるし、もう少し古いところではヤン・ファン・エイクの『アルノルフィーニ夫婦』の中央部分やファン・デル・フィンネの『球体のある静物画』(下図)なども挙げることができるだろう。
日本近代文学なら、『吾輩は猫である』の水島寒月や、乱歩の『鏡地獄』に登場する「彼」といったところだろうが、エッシャーも同様にレンズや球状鏡面に魅入られた者の一人だったのかも知れない。

Van der vinne.jpg

尤もエッシャーの作品を鑑賞するのに、そんなコムズカシイ理屈など必要ないのである。特別な予備知識など無くとも、ただエッシャーの迷宮世界に遊べばいいのだ。

蛇足になってしまうが、2次元世界でしか在り得ない『滝』や『物見の塔』を3次元化してしまったのは日本のデザイナー福田繁雄氏である(1985)。エッシャーの公式サイトにはCGとしてモデリングされているようだが、CG技術の未発達だった当時これを観て随分驚いた記憶がある。エッシャーが生きていたらなんと言っただろうか。



追記:2006/12/17) リンク追加。『スーパーエッシャー展』開催に伴い、上記福田繁雄の『滝』がYKK AP ショールーム品川にて特別展示。(普段は福田繁雄デザイン館・福岡二戸市に常設展示) 入場無料。1/9迄。

■M.C.エッシャー 公式サイト
■『スーパーエッシャー展』−ある特異な版画家の軌跡 公式サイト

■『福田繁雄が語るエッシャーの世界』 YKK AP ショールーム品川
posted by Usher at 18:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 美術 | 更新情報をチェックする

2006年10月14日

ダリ『天才の日記』−画家の成績表

『ダリ回顧展』が東京・上野の森美術館で開催されている。その為か、最近各所のブログで関連記事を見掛けるようになった。
さればよし、拙文もその便に乗じようか。というのだから、いい気なものである。

ダリの作品はユニークで決して嫌いではないのだが、ガラ夫人の姿を随所に見るとダリのマザーコンプレックスを見ているようで、どうも辟易してしまう。
ここでは、1964年に出版されたダリ自著『Journal d'un Genie』(邦訳『天才の日記』訳:東野芳明 二見書房刊 1971年)を紹介したい。
Journal d'un Genie.jpg
この『天才の日記』には巻末に幾つか附録がついている。附録Vのピカソに捧げた詩篇も面白いし、東野芳明氏があとがきに纏めた、瀧口修造とデュシャンとダリの幻の日記も興味深いのだが、附録Yの 『ダリ的分析に基づく諸価値比較一覧表』 はいっそう愉快であるので、以下に引用する。
        技術 霊感 色彩 主題 天才 構成 独創性 神秘性 真実性
レオナルド・ダ・ヴィンチ 17  18  15  19  20  18  19  20  20
メソニエ      5  0  1  3  0  1   2  17  18
アングル     15  12  11  15  0  6   6  10  20
ヴェラスケス   20  19  20  19  20  20  20  15  20
ブーグロォ    11  1  1  1  0  0   0   0  15
ダリ        12 17 10  17  19  18  17  19  19
ピカソ      9  19  9  18  20  16   7   2   7
ラファエル    19  19  18  20  20  20  20  20  20
マネ       3  1  6  4  0  4   5   0  14
フェルメール・デ・デルフト 20  20  20  20  20  20  19  20  20
モンドリアン   0  0  0  0  0  1  1/2   0  3.5

之は言ってみれば画家の成績表である。(構成上仕方がないのだが、レイアウトが崩れて読みにくい点をお詫びしたい。本では表形式になっているので、興味のある方は二見版を参考にされたい。)
おそらく20点満点なのだろうが、ヴェラスケス、ラファエロらが好成績のようだ。デルフトにおいては独創性以外オール20である。 モンドリアンの独創性1/2や真実性3.5などの採点法もダリらしい。

以前に触れたブグロー(過去記事)の名も見付けることが出来た。(5段目)
技術と真実性を除いて1と0が目立つ。 仏近代絵画の巨匠も、ダリ先生にあっては落第点のようである。


■生誕100年記念『ダリ回顧展』  公式HP
■『ダリ回顧展』  上野の森美術館
■ダリ略年譜  諸橋近代美術館
posted by Usher at 01:32| Comment(2) | TrackBack(0) | 美術 | 更新情報をチェックする

2006年09月19日

ウィリアム・ブグロー −甘美の画家

「あのコローの風景画は本物ですし、あのサルヴァトール・ローザは専門家は何というか知りませんが、あのブグローは本物間違いなしです。近代フランス派に目がないものでして。」 −コナン・ドイル 『四つの署名』

The Abduction of Psyche.jpg
上記の文はシャーロック・ホームズ『四つの署名』の登場人物である、双子の弟サディアス・ショルトーの私室の様子。
このサディアス・ショルトーという少々神経質症の男は、オスカー・ワイルドがモデルとされている。 ワイルドが愛したかどうかは不明だが、ブグローとはどんな画家だったのか? アーサー・シモンズ著『オーブレ・ビアズレーについて』(ビアズレー著『美神の館』所収 中公文庫)の訳注を澁澤龍彦が書いているので、引用したい。
ブウグロオ(1825〜1905) フランスの画家アドルフ・ウィリアム・ブウグロオ。パリの美術学校でピコに師事、1850年にロオマ大賞を得た。これが出世作になった『勝利の殉教』である。その後は恵まれた生活を送り、1876年には学士院会員に選ばれ、1885年にはサロンの名誉賞を贈られた。歴史画、宗教画、肖像画を描き、その様式は折衷的である。

「様式は折衷的」とあるが、いまひとつピンとこない。 それも当然で、これまで画集はおろか資料さえ少なかった為だ。(私も何年か前に画集をカナダへ発注を掛けたのだが、返答は「品切」であった。) 最近、米永輝彦氏が研究書を出版されたので紹介しておく。

『ウィリアム・ブグローの生涯』 マリウス・ヴァション著 米永輝彦編訳 東洋出版

『ウィリアム・ブグロー発見の旅』 米永輝彦著 新風舎

ブグロー研究書は和書ではこの2冊のみ。また『ウィリアム・ブグロー発見の旅』には図版が多く掲載されている。 画集は洋書を探すしかないが、最近はamazonという手もあるしwebでの閲覧も可能だろう。
近年欧米では、ブグロー再評価の動きが高まりつつあるようだ。仏画壇でこれほど高名ながら、軽視されてきた画家も珍しい。

※尚、写真は私の自室に掛かっていた『プシュケの誘拐』(1895)。 無論、複製画。


■BOUGUEREAU'S WEBSITE (米永輝彦氏のブグロー研究サイト)
■アート at ドリアン (ウィリアム・ブグローの項)
posted by Usher at 02:08| Comment(0) | TrackBack(1) | 美術 | 更新情報をチェックする

2006年08月23日

『イギリスの美しい本』展

book.jpg
過日、『イギリスの美しい本』展(千葉市美術館)を観に行く。
見事な装丁とドロップキャップを多用した紙面の構成は、溜息の出る美しさだ。 当展覧会の目玉は「世界三大美書」(ケルムスコット・プレス版『チョーサー著作集』、ダヴズ・プレス版『欽定英訳聖書』、アシェンデン版『ダンテ全集』)にあるようだ。下世話な話だが、この3点が揃うと市価400万円前後であるという。(昭和53年当時。)

しかし、個人的に注目したのは『アーサー王の死』(ビアズリー挿画)や、YellowBookでも活躍したローレンス・ハウスマンが原画/装丁を手掛た『妖精の国の最後』等だった。19世紀末は産業革命の発達と共に、印刷技術も向上した時代だ。

上記の『アーサー王の死』は、ビアズリーの挿絵全点収録(!)でフォークロア文学者の白眉、井村君江女史の訳で筑摩書房から刊行中である。全5巻。第5巻は11月刊行の予定。
arthur.jpg


追記:パーシー・ビッシュ・シェリーの全集が入口から少し行った辺りにひっそりと展示されていた。奥さんのメアリー・シェリー(『フランケンシュタイン』の作者)ばかりが有名で、P・B・シェリーがあまり日の目をみないのは、寂しい気がする。


■千葉市美術館 『イギリスの美しい本』展 (8月27日迄)
■筑摩書房
posted by Usher at 02:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 美術 | 更新情報をチェックする