それだのに、この儘で地獄に行き難いのは、
あのオフィーリアのことが気にかかるからだ。
彼女(あれ)にはつひぞ予(わし)の本心を打ち明ける機会が無かつたのみか、
無残にも狂ひ死にさせることになつてしまつた。−矢野峰人『ハムレット亡霊の独白』

猛る程恋に生き恋に死せる乙女として、ハムレットのヒロイン、オフィーリアもファムファタルの一人として数えてもよいのではないだろうか。
私が有名なミレイのオフィーリアを間近に観たのは、1998年の『テート・ギャラリー展』で上野に遊んだ際の事だった。『オフィーリア』はその展覧会の目玉で、私は人の群れが粗方去った後も暫くその場に立ち尽くしていた記憶がある。
その『オフィーリア』が遥か英国から再度お目見えしている。北九州市美術館の後は渋谷はBunkamuraザ・ミュージアムを巡回。それぞれ、6月7日(土)〜8月17日(日)迄と8月30日(土)〜10月26日(日)迄。
モデルとなった女性は、後のミレイの妻であるエリザベス・シッダル。4ヶ月に渡ってバスタブの湯の中に横たわってポーズをとり続けたが、ある時バスタブを温めていたランプの火が消え風邪を患い、彼女の父親との治療費をめぐる裁判沙汰になり掛けたという。
オフィーリアの廻りに描かれた草花は、その象徴的意味に基づいており、例えば柳は「見捨てられた愛」、刺草(イラクサ)は「苦悩」、ひな菊は「無垢」、芥子は「死」、パンジーは「愛の虚しさ」、薔薇は「若さと美貌」、忘れな草は「思い出」、そして彼女が首飾りにしている菫は「誠実・純潔・夭折」といった具合である。
内、菫についてはリンク先である国見弥一氏のサイト、『壺中山紫庵』にも興味深い記事があるので、是非御一読されたい。
■『ジョン・エヴァレット・ミレイ展』 −北九州市美術館 6月7日(土)〜8月17日(日)迄
■『ジョン・エヴァレット・ミレイ展』 −Bunkamuraザ・ミュージアム 8月30日(土)〜10月26日(日)迄
■ハムレットとスミレとオフィーリアと −『壺中山紫庵』


