2009年02月20日

バロック・ヴァイオリン

バロックヴァイオリン

「少しの間問屋さんから楽器を御借りしたので、是非観にいらっしゃいませんか?」
馴染みの楽器店の技術者さんからそんな連絡があったので、仕事の帰りに道草がてら観に行くと、其れはバロック・ヴァイオリンだった。

「私も個人的に興味がありましてネ。」
と恭しくケースから取り出して私に手渡した。折角なので私は弓を張り、肩当ても顎当ても付いていないその楽器を顎の下へ挟み込み、そおッと弓を引いてみた。
すると何とも柔らかい音色ではないか。私は改めて調弦をして当たり障りのない、バッハの曲を少しだけ試奏させてもらった。

今バロック・ヴァイオリンと書いたが、正確にはバロックモデルのヴァイオリンである。近代制作され古楽を趣味とする人が持つ物だ。其れにしてもモダン・ヴァイオリンと随分違う。ネックは太いし、指板は短いし、駒は高く、胴の膨らみは大きい。全体的にゴツいのだ。モダンvnが華奢にさえ感じてしまう。その上顎当ても無いので、力一杯挟んでもするすると滑っていく。モダンvnとは明らかに違う構え方、奏法でなければならないようだ。

モダンヴァイオリン
▲私が普段使用するモダンvn。指板の長さの違いがお解りだろうか。

最近の著名な演奏家が持つストラディバリだのアマティだのは、モダン仕様というやつで、改造を重ねられ制作当時の原型は留めてないのが殆どである。此れを少々勿体無いと思ってしまうのは私だけではないだろう。

「バロックモデルとしては破格ですよ。」
と技術者さんは、ににッと私に微笑みかけたが、
「いやァ、モダンvnさえ未だまともに弾けていませんしネ…。貴重な体験をさせて戴きました。」
等と言って御茶を濁し、私はソソクサとその場を後にした。


■鳴るほど♪楽器解体全書:バイオリンの歴史と構造 −YAMAHA
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2009年02月18日

『ゴールドベルク変奏曲』オルガン編曲版

ゴールドベルク変奏曲(オルガン編曲版)

こんな面白い編曲もあるものだな、と思った。

友人と待ち合わせをしている間に一寸時間があったので、戯れに入った中古CDショップの棚に其れは有った。余りにも有名な『ゴールドベルク変奏曲』。手に取ってみるとどうやらパイプオルガンの編曲版のようである。「まァ、500円程度ならハズレでもそんなに悲観することもないだろう。」と思い、グールドの初期録音集(こちらは900円チョットだった)と一緒に購入し、聴いてみた。

「眠る」には些かヤカマしいかもしれないが、パイプオルガン特有の音の伸びと広がりがあって中々良い。オルガンはピアノやチェンバロと違って音が減衰しない為だ。

いつだったか『平均律クラヴィーア曲集』をヴァイオリンで弾こうとした時に、知り合いのチャーチオルガニストの方が私にこんなアドバイスをくれた記憶がある。
「本来の楽器の為に書かれた曲を別の楽器で弾くときは、元の楽器の特性に近い様に弾くか、或いは自分の楽器の特性を生かして弾くかの2通りになるんじゃないかしら。」
ピアノのタッチに似せた音色を出すには技量不足だったし、弦楽器の編曲譜が有ったので結局ヴァイオリンの特性を生かして弾くことにしたのだが、其れは兎も角、此のCDは後者に当てはまる。

バッハの曲だからこそオルガンで弾いてもあまり違和感を感じないのかもしれない。特にクライマックスである第30変奏のquodlibet(クォドリベット)は圧巻。カイザーリンク伯も草葉の蔭から目を覚ますかもしれない。


■『ゴールドベルク変奏曲』(Org. エレーナ・バルシャイ) −Brilliant Classics
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2009年01月21日

リンク先紹介

久し振りのリンク先紹介。


■NEBEN LETZTEN LIEDES …私の良き文芸の知己であるmay.O女史のHP。女史曰く「酔生夢死の迷走と其の顛末」。しかし傍目の透明感に侮る勿れ。アプサント酒のように喉を焼き、強き香りに酩酊すること心されたし!

※携帯サイトなので、PCから閲覧する場合はSleipnir等のUAの変更可能なブラウザをお勧めする。


■Sleipnir 2.8.4
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2009年01月16日

福田繁雄氏を悼む

物質のメタモルフォーズはすべて、垂直の失墜に関係づけられている。
−ルネ・パスロン

『ボンジュール・マドモアゼル』

日本のエッシャーとして親しまれ、個人的にも大好きであったデザイナー、福田繁雄氏が今月11日亡くなられた。享年76歳。

肩肘張らずに楽しめる視覚的芸術作品の数々は、今尚人々を魅了する。

慎んでお悔やみ申し上げます。


■遊び心生かしたグラフィックデザイナー福田繁雄さん死去 −YOMIURI ONLINE
■福田繁雄 −Wikipedia
■M.C.エッシャー −視覚の魔術師 (弊ブログ関連記事)
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2009年01月15日

『神曲』譯文アレコレ

價を論ずれども成らざりしかば、思ひあきらめて立ち去らんとしたる時、一書の題簽(だいせん)に「ヂヰナ、コメヂア、ヂ、ダンテ」(ダンテが神曲)と云へるあるを見出しつ。嗚呼、これこそは我がために、善惡二途の知識の木になりたる、禁斷の果(このみ)なれ。
−アンデルセン 森鴎外:譯『即興詩人』

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古代ローマ詩人ウェルギリウスに導かれ地獄を遍歴し、煉獄山を登ってやがて昇天して行く。
詩聖ダンテの一大叙事詩『ディヴィナ・コメディア』に付いては、聡明な読者諸氏なら今更説明も要らないだろう。

現在入手し易い『神曲』は、山川丙三郎譯の岩波文庫か平川祐弘譯の河出書房新社、或いは寿岳文章譯の集英社文庫といったところだろうか。(此の内、山川譯は青空文庫で閲覧可。)

山川譯は名譯ながら文語調で些か古いと思われるなら、平川譯か寿岳譯が良いだろう。また美術書として愉しみたいのであれば、ギュスターヴ・ドレの挿画が全て載ったデザイン性も高い谷口江里也譯、アルケミア版を薦めたい(絶版)。但し谷口譯は抄譯であるから、上田敏著『詩聖ダンテ』を併せて読むのもいいかも知れない。抄譯には抄譯というわけである。

『神曲』 アルケミア版
▲アルケミア版『神曲』。カバーを外すと黒い表紙が現れ。天、地、小口は金塗りの装飾。祈祷書もかくやとばかり。

アンデルセンに『即興詩人』の主人公アントニオをもって「禁断の果実」と云わせしめた『神曲』は、おどろおどろしい映画やサスペンスドラマの小道具ではない。『Commedia (喜劇)』の名の通り、恋情と哲学と寓意、そして人間への生命讃歌なのではなかろうか。


■『神曲』 譯:山川丙三郎 青空文庫
■『神曲』 譯:寿岳文章  集英社文庫ヘリテージ
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2009年01月12日

『雪舟と水墨画』展

雪舟自幼好画、不事経巻。一朝師僧大怒、縛雪舟於堂柱。日漸及暮、師僧又憐之。自到堂上、将解縛索。于時、雪舟膝下鼠驚走。師僧亦驚騒、恐傷雪舟急逐之。然鼠不動揺。師僧怪見之、雪舟終日愁苦之所致涙痕滴堂。雪舟自以脚大拇指、点涙画鼠於堂板。其勢恰似活鼠奔走之体。於是師僧服其妙、自是後不戒画。
−狩野永納『本朝画史』

倣玉澗山水図

画聖雪舟等楊が涙で描いた鼠の逸話は余りにも有名だが、此の様な伝説は他にも有るものだ。『歴代名画記』に依る張僧ヨウの描いた画竜点睛の故事然り、左甚五郎の木彫りの鯉の話然りである。

『雪舟と水墨画』展が千葉市美術館にて開催中である。宮本武蔵の『布袋竹雀枯木翡翠図』も展示されているようなので、首都圏近郊に御住いの方は必見。


■岡山県立美術館所蔵『雪舟と水墨画』 −千葉市美術館 〜2009年1月25日(日)迄
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2009年01月09日

ピュア・ガットとバロック弓

ヴァイオリンの弦をナイロン弦からピュア・ガットに取替えてから、2ヶ月程。早くもE線が傷んで蟋蟀の鳴き声の如き音色しか出なくなってしまった。これでは仕方が無いので、張り替えることとした。

ピュア・ガット弦
▲傷んでしまったE線。G線のみ赤銅色なのは、コパー(銅)巻の為。

ピュア・ガットというのは羊の腸の繊維だけを取りほぐし撚り合わせて作った、主に古楽器で用いられる弦のことなのだが、金属で巻いていないので気が付くとすぐにささくれ立ってしまう、親不孝モノなのだ。何故こんな古式ゆかしい弦を張ったかというと、半年程前に購入したバロック弓のせいなのである。

バロック弓はモダン弓と違い、その構造から均一な音量が出ない。弓の根元から先に行くに従って徐々に音が減衰してゆく。しかし、弱声からクレッシェンドして強声へ、そしてデクレッシェンドで弱声に戻るという表現が屡屡見られるバロック楽曲では、とても有効なのだ(これをmessa di voceと云う)。またモダン弓より5〜6cm程長さが短いのも特徴で、とても取り回しが良いので刻んで弾くような曲で非常に利に適っていると云えると思う。

モダン弓とバロック弓
▲モダン弓(上)とバロック弓(下)。反り返ったモダン弓に対し、バロック弓はほぼ真直ぐ。毛の量もバロック弓の方がやや少ない。

バロック弓にナイロン弦の取り合わせもどうかと思ったので、ピュア(ハダカ)のガットを張ってみたのだが、これがどうして中々良い。
最初はガサガサと云う特徴的な音に抵抗も感じたが、それも慣れてきた。但し維持費が高く付くのと、調弦に手間取るのが難点ではある。
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2009年01月04日

iPhone/iPod touch対応

弊ブログをiPhone/iPod touchで閲覧されるニッチなユーザーの為に、対応サイトを秘かに設置した。(※preview)

下記リンクか、記事検索下のMoFuseのバナーから入りブックマークして頂くと良いと思う。RSSから生成しているだけなので、広告が入ってしまうのは御愛嬌。
勿論、Webクリップにも対応。

追記:2009/1/11) 広告が入らないように設定しました。


■Fonthill Abbey for iPhone/iPod touch
posted by Usher at 23:19| Comment(0) | TrackBack(0) | the other | 更新情報をチェックする

2009年01月01日

冥草舎の装丁

日本のやうに機械の利用出来ぬ処では十分な事は出来ないでせうが、兎に角もつと美しい装幀の本が出て好いと思ひます。装幀者、印刷工、出版書肆に人を得れば、必しも通常の装幀費以上に多分の金を使はずとも、現在行はれてゐる装幀よりもずつと美しい装幀が出来る筈です。
−芥川龍之介『装幀に就いての私の意見』

『死都ブリュージュ』

グーテンベルク聖書のような高価な稀覯本でなくとも、美しい装丁の書籍に出逢えば本の扉裏に書かれた装丁家と出版社を確認してみたくなるのは、愛書家のサガというものであろうか。

冥草舎から1976年に発行された『死都ブリュージュ』は美しい本である。函は白地に金文字の型押し、たっぷりと余白をとった贅沢な頁、近年泉下の人となった窪田般彌の新譯。造本は山田良夫。限定1000部。

冥草舎というのは林檎屋主人として通っていた西岡武良氏が興した出版社で、種村季弘の『影法師の誘惑』や、俳人加藤郁乎『球体感覚』の解題である松山俊太郎の『球体感覚御開帳』等も此処から出版されている。

森開社、奢霸都館と並んで、瀟洒な造本と少部数で私の大好きな出版書肆の一つである。
posted by Usher at 18:04| Comment(2) | TrackBack(0) | 文学 | 更新情報をチェックする

2008年07月06日

毛替と漁書の日

ヴァイオリンの弓も随分と痩せてしまったので、渋谷の楽器店に毛替えに出していたのだが、出来上がりの期日もとうに過ぎていたから、引き取りに行くことにした。(弦楽器の弓というのは、馬の尻尾を束ねて出来ており、消耗品なので定期的に交換する必要がある。)

「ほ、ほう。」
受け取って、少し弓を張ってみると弓のよじれまで修繕してあったので、職人とは大したものだと感心して楽器店をあとにする。

時間も財布も余裕があったので、いつもの古書店に立寄りいくつか物色。購入したのは、

●『寸秒夢』 著:瀧口修造
●『世紀末英文學史』 上・下巻 著:矢野峰人
●『ことばの森の狩人』 著:エルザ・トリオレ 訳:田村叔
●『アンリ・ミショオ詩集』 訳:小海永二
の計5冊。

此処の古書店では、お茶を飲みながら買った本を読むことが出来る。丁度喉も渇いていたから私はアイスコーヒーを頼んで、ミショオをぱらぱらと捲った。
しかし疲れていたのかあまり頭に入らず、飲んでるそばから客が映画の古いパンフレットをバサバサと重ねるので、埃が舞って辟易してしまった。

各巻の詳細については後日、更新しようと思う。


■『戦後フランス詩集』 −ルイ・アラゴン散文2篇 (幣ブログ内関連記事)
posted by Usher at 23:48| Comment(3) | TrackBack(0) | 文学 | 更新情報をチェックする