
「少しの間問屋さんから楽器を御借りしたので、是非観にいらっしゃいませんか?」
馴染みの楽器店の技術者さんからそんな連絡があったので、仕事の帰りに道草がてら観に行くと、其れはバロック・ヴァイオリンだった。
「私も個人的に興味がありましてネ。」
と恭しくケースから取り出して私に手渡した。折角なので私は弓を張り、肩当ても顎当ても付いていないその楽器を顎の下へ挟み込み、そおッと弓を引いてみた。
すると何とも柔らかい音色ではないか。私は改めて調弦をして当たり障りのない、バッハの曲を少しだけ試奏させてもらった。
今バロック・ヴァイオリンと書いたが、正確にはバロックモデルのヴァイオリンである。近代制作され古楽を趣味とする人が持つ物だ。其れにしてもモダン・ヴァイオリンと随分違う。ネックは太いし、指板は短いし、駒は高く、胴の膨らみは大きい。全体的にゴツいのだ。モダンvnが華奢にさえ感じてしまう。その上顎当ても無いので、力一杯挟んでもするすると滑っていく。モダンvnとは明らかに違う構え方、奏法でなければならないようだ。

▲私が普段使用するモダンvn。指板の長さの違いがお解りだろうか。
最近の著名な演奏家が持つストラディバリだのアマティだのは、モダン仕様というやつで、改造を重ねられ制作当時の原型は留めてないのが殆どである。此れを少々勿体無いと思ってしまうのは私だけではないだろう。
「バロックモデルとしては破格ですよ。」
と技術者さんは、ににッと私に微笑みかけたが、
「いやァ、モダンvnさえ未だまともに弾けていませんしネ…。貴重な体験をさせて戴きました。」
等と言って御茶を濁し、私はソソクサとその場を後にした。
■鳴るほど♪楽器解体全書:バイオリンの歴史と構造 −YAMAHA

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